【佐渡島】栄光山玉林寺でおこなわれた涅槃会の体験談を紹介

栄光山玉林寺

佐渡島には280を超える仏教寺院が存在します。佐渡市畑野の玉林寺で令和3年3月15日に行われた法会、涅槃会に参加しました。こちらのページでは涅槃会に参加した体験談をご紹介します。

1.栄光山玉林寺とは

佐渡市畑野に位置する栄光山玉林寺は、文明17年(1485)に創立された真言宗智山派のお寺です。佐渡遍路53番目の札所となります。文明年間といえば、応仁の乱が終結し、日本は戦国時代に突入した危うい時代ですね。各地で一揆が頻発した頃です。

御本尊は胎蔵界大日如来、京仏師 和田浄慶の作です。御前立(秘仏の代わりに安置された仏像)は文殊菩薩で学業、知恵の仏さまです。周囲は小中学校に囲まれ、この地が周辺地域の寄合的な役割を果たしていたことが窺えます。

山門前に結構堅緻宏状式と呼ばれる形状の鐘楼が在り、参拝者を圧倒します。袴腰になった鐘楼でとても立派な建物です。毎年大晦日になると鐘楼から百八つの除夜の鐘が響き渡ります。

鐘楼と鐘は廃寺となった佐和田真光寺のものを明治期に購入設置したものですが、第二次世界大戦中、鐘は供出されてしまいました。現在の鐘は昭和61年に鋳造されたものです。時代の流れに翻弄され、かつそれを乗り越えてきた、信仰の力強さを鐘の音に感じました。

仏教寺院装飾

お寺犬ラオくんの熱烈な歓迎を受け、参道を進んでお参りします。本堂を拝観させて頂くと荘厳な仏教寺院装飾が目に飛び込んできました。大きな黄金の天蓋が天井から下がり、その奥に仏さまのお姿が見えます。天井には梵字が書かれていました。

筆者は信心深い人間ではありませんが、こうした高度な美術工芸品を目にすると、自然に厳粛な心持になり両手を合わせてしまいます。

境内には『宝暦五年』と刻字された供養塔があります。1,775年佐渡島国中で発生した大飢饉の犠牲者を慰霊するため、建てられたものです。

この年の飢饉は佐渡史上最も恐るべきもので、3,000人もの島民が餓死したと伝えられます。国中平野中心地に立つ玉林寺は島の清濁の歴史を見つめ続け、島人に寄り添い続けて、今に至るお寺です。

2.涅槃会の御供物「やせごま」作り

2-1.やせごま作りワークショップ

玉林寺では毎年3月15日、涅槃会(ねはんえ)という法会が執り行われます。涅槃会には「やせごま」という御供物が必要とされ、毎年玉林寺住職と檀家さんの手で作られお供えされてきました。やせごまの語源は諸説あり、一説には釈迦の母、ヤソーダラーから来ているとも謂われます。やせうま、やしょうま、と呼ぶ地域もあるようです。

近年は檀家数の減少、三浦住職のご家族がそれぞれ独立なさったことも重なって「やせごま」作りが困難になり、存続、継承が危ぶまれていました。「このままではやせごまの作り方が判らなくなってしまう」

三浦住職のお弟子であり、佐渡古文化保存協会、古玉学芸員の呼びかけで「やせごま」作りのワークショップが玉林寺で開かれるようになりました。令和3年のやせごま作りワークショップは3月13日(土)、多くの参加者を迎えて開催されました。

2-2.やせごまの作り方

「やせごま」は佐渡に伝わる伝統菓子「しんこ」(しんこもち、しんこまんじゅうとも言う)に似ていると言われますが、筆者には全く違う物に見えました。レシピは途中まで同じですが、用途が違います。お菓子作りに対する意識が違うのです。

しんこは木型に生地をはめ込んで蒸しあげた菓子で、節句のひな壇に供えられたりします。蒸し上がったばかりのしんこをおばあちゃんたちは子供たちにおやつとして食べさせてくれますが、やせごまはそうはいきません。

あくまでも御供物であり仏さまに供えることが前提です。仏さまにお供えするにふさわしい物を作らねば!と意気込みました。とは言っても実際のお菓子作りはとても楽しい体験でした。材料は佐渡産の上新粉ともち粉をブレンドして使います。(上新粉2、もち粉1の割合で)

上新粉
求肥粉
やせごま作り

こうした原材料を作る地元の農家さんがいらっしゃるからこそ、受け継がれていく伝統なのでしょう。粉類に少量の水を混ぜて捏ねていきます。水は少しずつ、固さを見ながら足していきます。住職から「そば粉を捏ねる要領で!」と言われましたが、すいません、そば粉捏ねたことありません。

住職の使う捏ね鉢はとても年季が入っていて、長の年月、力いっぱいやせごまを捏ねあげてきたことが判ります。参加者にはそれぞれボールが配られました。耳たぶくらいの固さになったら、食紅を各色混ぜて80cm程度の棒状に整形します。棒の断面は直径12cm位。濡れ布巾をかぶせてしばし寝かせます。その間にどんな絵柄を作るか、イメージクリエイトです。

玉林寺にはレシピの他にこれまで作ったやせごまの写真を残したアルバムがあり、そちらを見ながら自分の作りたいイメージを膨らませていきました。このアルバム、傑作が揃い踏みで見ているだけで楽しいのです。中には見るも鮮やかな薔薇の図柄もあり繊細な細工に驚愕、感動致しました。

玉林寺の紋は桔梗なので、こちらでは毎年桔梗柄のやせごまを多く作っている、との事です。では桔梗で、ってそれはちょっと自分には無理。あやめ、これもハードル高い、難しそう。藤、これ綺麗だなーって、図工とか美術とか赤点に近かった自分にはこれも無理。

花でなくても良いのですが、やっぱり綺麗な花が作りたいし。やせごまの起源は冬場に供える花が無いために、きれいな花柄のお菓子を供えたとの説もあるので、やはりここは花を作りたいです。では一番簡単そうな所で、梅に決定。菓子作りよりもイメージ作りに多大な時間を割いてしまいました。

やせごまの生地は金太郎飴形式に組んでいきます。まずイメージした図柄をパーツとしてそれぞれ用意していきます。花柄ならば花びら一つ、葉一枚、枝1本にも各パーツが必要です。梅柄を作るため生地を包丁で切り、5つのピンク色の花びら、中心と脈に黄色のパーツを用意しました。画像は三浦住職の作る、桔梗柄です。

やせごま作り2
やせごま作り3
やせごま作り4

各パーツが5cm程度の高さになるように揃えていきます。まるで粘土細工です。パーツが揃ったら隙間なく整形して、周囲をベースの生地で円形になるように包みます。整えて直径20cm位の円形になった生地はデコレーションケーキのよう。

次にこのデコレーションケーキを高さ20cmの円筒状にしていきます。手で生地を回しながら圧縮、上へ上へと生地を伸ばしていきます。←これが意外と難しい!まるで陶芸です。高さが確保できたら思い切って2つに切断します。

やせごま作り5
やせごま作り6
やせごま作り7

切断したものを更にぎゅっと押し詰めて圧縮、350ml缶位の大きさにしていきます。空気を抜きながら圧縮した生地は高さ20cm、直径7cmの円筒になりました。ロールケーキのようです。隙間があると後でひび割れる為、ぎゅうぎゅうと押し詰めて更に空気を抜き、仕上げます。

切り分けた際の残り生地は、少しずつ丸めて団子にして積み上げます。白くない、多色ありのお団子が新鮮でした。後は蒸し器で20分蒸しあげて冷まし、翌日輪切りにすれば出来上がりです。ワークショップは蒸し器の準備ができた所で終了となりました。

やせごま1
やせごま2

3.玉林寺の涅槃会の体験談

涅槃会とはお釈迦様が入滅した日、亡くなった日をみなで偲び、その威徳を称え、今生きていることに感謝を捧げる法会です。見出しタイトルの『玉林寺 涅槃会~生きていく、生きている~』は古玉学芸員の考えたコピーで、涅槃会参加者募集のポスターに使われていました。

2月15日が釈迦入滅の日ですが、佐渡では旧暦に倣い、3月15日に法会が執り行われます。涅槃会には釈迦入滅の図、涅槃図を本堂に掲げ、供物を捧げてこの日だけの特別なお経、『仏遺教経』が読まれ、参加者も声を合わせて読経しました。

涅槃会1
涅槃会2

繰り返しになりますが、筆者に仏教に対する信心はほとんどありません。檀家でもない多宗派の者が参加してよいものか、正直考えたりもしていました。玉林寺では○○宗、○○派といった宗門の別に関わりなく広く参加者を募っていたので、思い切って参加しました。

お経を聞きながら、じっと涅槃図を見つめていると、自分もお釈迦さまを悼む生き物の一部になったような気がしました。涅槃図の中に入っていったような感覚です。同時に数年前に亡くなった自分の父母のことを思いました。自分も姉弟たちも涅槃図に描かれた人や動物と同じように、静かになった親の側に寄り添い、いつまでも泣き続けていた記憶が蘇ります。

一番悲しいことだから無意識に忘れようとしていたのかもしれません。でも忘れてはいけないこと、今の自分があるのは先立った人々のお陰であることに感謝して、生きてゆかねばならないのだ、と感じ入った次第です。

やせごま作りは涅槃会に臨む自分の心を整えてくれた作業でした。誰かのため、何かのために食べ物を作る、それは自分の立ち位置を確認する、自分の心を確立させる作業なのかもしれません。

法会が終わると御供物のやせごまをたくさん頂いて家路につき、両親の仏壇に供えました。きれいなお菓子を供えられて、遺影もいつもより嬉しそうに見えた気がします。また来年、梅の花が咲き誇る頃、このお寺を訪ねてみようと思います。

※この記事は佐渡の古寺と伝統行事を発信するものであり、一宗教の紹介、勧誘を意図するものではありません。

栄光山玉林寺の場所

新潟県佐渡市畑野甲203
佐渡汽船両津港ターミナルから車で30分
バス停畑野学校前下車 徒歩300m

TEL:0259-66-2236

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