【佐渡島金北山の登山体験談】佐渡原生林エコツアーの感想

金北山

海のイメージが強い佐渡島ですが、山登り、トレッキングにも密かな人気が集まっているのをご存じでしょうか?初夏、5月中旬には山野草が咲き誇る登山道を行く、愛好家の姿が多く見られます。佐渡島金北山は、金鉱山としてだけでなく、手つかずの原生林が今も生きる山でもあるのです。一般社団法人佐渡観光交流機構が発信する、「佐渡原生林エコツアー」に参加しました。

1.佐渡原生林エコツアーとは

佐渡観光交流機構では佐渡島の自然を大満喫するプラン、佐渡エコツアーを3コース用意しています。「原生林と杉巨木群トレッキング」「佐渡原生林ハイキング」「トキの里山ハイキング」の3コースです。

現在注目が集まっているのが、「原生林と杉巨木群トレッキング」です。というのもコース内で見学できる杉巨木「金剛杉」を写真家、故天野尚氏が撮影し、2008年洞爺湖サミットで展示され、国際的に注目を集めたことがきっかけでした。佐渡エコツアーガイド協会の案内の下、永年を生きる巨木の姿は圧倒的な存在感と生命力を誇ります。

エコツアーの基本方針は「保全を第一に考える」というもの。無許可入山者が相次いでいる現状から、一定のコントロール下で入山を許可し、原生林を守らねばなりません。また「地域の活性化」と「環境教育」のため、一定のコントロール下で原生林を活用する必要があります。(佐渡エコツアー資料より)

佐渡エコツアーに参加する前にこれらの基本方針を十分理解し、脳内に叩きこみ、体内に取り込んだ上で入山します。簡単な言葉で言うと、無許可で原生林に入っちゃだめよ、ってことです。きちんと許可を得て、エコツアーガイドさんの適切な指示の下、正しいマナーで古木に遭いに行きましょう。

2.佐渡島金北山の登山体験談

佐渡の巨木を訪ねるには3つのコースがあります。①内海府ルート、②外海府ルート、③千手杉ルートの3つです。このうち①と②はトレッキングコース、③は途中まで車で入山するハイキングコースです。

私が挑戦したのは➁外海府ルートで、歩く距離、約10km、所要時間、約6時間の山登りです。資料をもらった時点で心がぼっきり折れました。子供の頃から山登りは嫌いではありませんが、もう10年近くどこの山にも登っていません。年齢も考えると、ここはちょっと躊躇しちゃう所です。

周囲の人に参考意見を聞くと、「平気平気、楽勝―!」と答が返ってきまして、余計不安になること山の如しです。渡された資料を読めば読むほどビビる自分。マムシもいるそうです。ハチやアブに刺されるとアナフィラキシーショックを起こす人は要注意。アナフィラキシーを起こしたことはありませんが、体力が無いことに関しては自信があります。

でもね、もう行くしかなかったんですよ。「金剛杉」や「大王杉」を拝める機会はもう二度と無いかもしれない、、、渡された資料通りに携行品を準備して出発しました。相川地区関の登山道までは車で移動、登山道は事前に許可を取り、ツアーガイドさんの案内が無ければ入山できません。軽く準備運動をしてから山登りが始まりました。

私たちのガイドさんはご夫婦でエコツアーガイドの資格を持っていらして、お二人で先頭と最後尾を勤めてくれました。入山してからしばらくは植林地が続きます。佐渡市の木アテビ(別名=アスナロ)も見られました。

金北山を相川から両津に抜ける山道は、従来林業従事者の生活道路であったそうです。この山道を(獣道みたいな)木や荷物を運んで往来するなんて、私には想像ができません。山に生きた人たちが必要に迫られ、知恵と技術を尽くして保持されてきた道でした。

原生林に入り、次第に道は険しくなっていきます。山登りとしては中級クラスだそうですが、山に登らない人間からすれば十分上級クラスですよ。道は前日の雨で少しだけぬかるんでいました。傾斜のきつい場所では、足よりも先に呼吸が乱れます。

もうだめ、もう無理と思うと絶妙のタイミングでガイドさんが休憩という名の説明を入れてくれました。ツアーガイドさんは所々で山野草を見つけては、iPadを取り出して名前を教えてくれます。その知識量には驚くばかりです。でも既にヘロヘロの自分は記憶回路が作動していませんでした。ごめんなさい。

金北山2
金北山3

今どの辺かな?あとどれくらい?半分位は登ったかな?地図と時計を見るのが怖いです。ただひたすらガイドさんの後についていくだけ。メディアで紹介された杉以外にも、山中には見るも壮大な杉古木が立ち並んでいます。杉は風雨にさらされ冬の雪を受けるため、枝はたわんだ象の牙のような形状になります。

山霞がたちこめて、原生林は幻想的なもののけ姫の森のようでした。慣れない山道に後悔の念が沸きます。もう無理、限界、ここで死んだらタタリ神になってしまう、いやだ、タタリ神なんてなりたくない、おっことぬし様―!思考もおかしくなってきました。そして突然、場が開けたのです。金剛杉でした。

金剛杉

金剛杉

金剛杉は天野尚氏が被写体にした古木の呼び名で、樹齢500年と言われています。周囲の杉はどれも金剛杉の根から派生したクローンで、その生命力の強さに圧倒されました。鎮座する、という表現が一番近い気がします。古木は何も主張しません。ただ静かにそこに立っています。発しているものは命を誇るオーラでした。

人間なんて小さいなー、金剛杉は戦国時代あたりからずーっとここにいたんだもんなー、とゆるフワな感想を抱きながら、ただただ杉を見つめていました。天野尚氏の撮影した金剛杉は、佐渡市の施設『アミューズメント佐渡』にて、パネル写真を見ることができます。こちらも一見の価値大ありです。

金剛杉から少し登山道を歩くと、関越の仁王杉(せきごえのにおうすぎ)に到達し、お昼タイムになりました。ここまで来た自分を自分で誉めたい!推奨携行食の羊羹を素直に持って行った私、山で食べる甘味って最高です。昼食後は「王様の小径」を通って、新潟大学演習林「大王杉」を見に行き、その後下山しました。

大王杉

3.原生林保全に関する考え方

佐渡島の山は金銀山統治の影響から江戸時代初期より厳しい管理体制が敷かれていました。山で生産される杉は貴重な資材であり、鉱脈を掘り進める坑道を支え、家屋、和船などに使用されます。明治期に入ると皇室の御料林となり、現代では新潟大学の演習林となっています。

佐渡の山に生きた人々にとって、木は糧でした。生きる手段を山に求めた人々は、山の保全にも力を尽くしてきた歴史があります。今、山に登る人も原生林の保全を最も重要視しなければなりません。千年を超える巨木も、人間の不注意であっという間に失われてしまいます。

山に登らなければ良い、というわけでもありません。保全に人の手が不可欠であることは佐渡林業の歴史が証明しています。原生林の保全を第一とし、地域の活性化と環境教育に活用する、その為に厳しいルールをもうけ、入山は許可制とされています。私たちに出来る保全とは、山に関心を持つことかもしれません。佐渡の山に人間の寿命を遥かに超え、風雪に耐える偉大な古木があることを、忘れてはいけないと思いました。

画像提供:吉田仁樹/三浦良廣

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